四難卦とは?

 「この卦は四難卦のひとつです。」などと本に書いてあったら、イヤですね。
しかし、易は『 凶 』と出ても、それほど恐い事がない場合も多いです。それぞれ、どんなものでしょうか?

  1.  三番 水雷屯
     これは四難卦のうちで、私が一番好きな卦です。
     周囲の状況は最悪でも、本人が勇気リンリンで、「ふん。今に見ておれ。」と、目が燃えています。
     本文の解説で、『 屯は雪下に萌えるなり 』とありますね。
     植物の芽が出るのはいつも冬で、桜も厳寒期に花芽がそれと判るようになります。これは人間にも、かなり言えるのではないかと思います。
     今、出る事が出来ないだけで、しばらく胸の火を燃やしていれば、必ず状況は変わり、芽は出、花は咲くという、「 出して嬉しい四難卦 」です。
     『 四難卦は、四凶卦ではない。』という、よい例の卦だと思います。


  2.  二九番 坎為水
     初爻に『 坎難(艱難かんなん)の さらに最下位 底の底 』とありますように、欠乏、困窮、悩みを意味する『 坎 』が、二つ重なっています。
     気を付けるべき事は、精神的な面での落ち込みの方が大きい事です。気持ちが滅入ってしまうのですね。落ち着いて周りを見てください。必ず実際の困窮以上に、悲観的に成っています。こんな時にしっかりしていなければ、ダメージはさらに大きくなります。
     心身ともに消耗している時が多く、状況が悪いのに、無防備になる傾向があります。一歩退いて、冷静に自分を守る事を考えるべき時です。
     私は平時にこれが出て、事故を起こした事があります。しかしこれは、注意していれば避ける事が出来たものでした。反省です。
     運気も最低の時が多く、こう言う時には、なした業が返って来ます。心当たりのある人は、借金を返すチャンスと思ってください。
     冬のさなかです。このような状況は、人生に必ず何度かやってきます。多くの占断家が口をそろえて言う通り、
     「 今は試練の時。強くなるための時期。人格向上のためにぜひ必要な時期。この時期にやる事は多い。」
     芸術家が相当に苦しんで作品を生み出すように、色々な考えは、不思議と苦しい中で浮かびます。学問、芸術、宗教のような精神分野では、そのまま吉です。水の深さと静けさでしょうね。


  3.  四七番 沢水困
     困とは口、囲いの中に木が生えたかたち。伸びる事はできず、窮屈です。この卦は、嫌いですね。
     原典に「言あるも信じられず。」とある通り、こちらの動きが周囲と完全に食い違う。沢の下に水がある通り、どんどん水が漏れて行きます。こちらの努力が空転・浪費される時です。文字通り、何を言っても信じてもらえない場合もあります。
     こんな時には非常な孤独感、絶望感が伴いますね。ヤケに成っては、ますます立場を失います。まず、自分の周囲に対する働きかけを、チェックしましょう。なぜ空転するか、よく考えて、静かにこの状況をやり過ごす事を、お勧めします。


  4.  五二番 艮為山
     山……… 障害が二つあります。山また山。しかし、何かするには障害はつきもので、障害なしですんなり行く事なんて、人生にそう何回もありませんね。
     だからこれは、私は普通の卦だと思っています。原典でも『 吉 』と成っています。
     しかしちょっと、乗り越える壁は大きそうです。
     こんな時は『 動かざる事、山のごとし 』で、ただどっしりと構え、とどまる事が良いとされています。
     これも芸術、企画、特に学問や研究には良い卦です。山ごもりのスルドサでしょうか。

     四難卦のうち、水雷屯以外は三つとも、 『 学問、芸術、研究、企画に良し。 』 と成っています。これは私、近年よく解るように成りました。先人達が新しい学問や芸術分野を切り拓くような大がかりな事はもちろん、誰しも自分なりの境地を開拓する時、哲学という程でもないが、生涯指針と成るような自分なりの信念のようなものを確立する時には、外界との接触は極めて疎遠になり、ただ自己自身のみに徹するような時期を経ます。そんな時には外界にも、共時的に酷くつらい事が起こり、一種危機的な局面をくぐらねば成りません。
     これは小説や芸術作品だけの話ではなく、科学や業務上の開発や企画でも、自分の自我発展の歩みと共に、成ってゆくものと思います。
     反対に苦悩や上位者がなくなった人間は、果てしなく低俗に成ってゆき、たちまち意識が正常の範囲を越えてしまいます。ショウペンハウアーは苦悩を船底の錘 ( おもり ) に喩えましたが、苦悩はまことに必要欠くべからざるもの。しかし、出来たら 「 ある程度は ……… 」という事にして置いて欲しいですね。( 笑 )

 四難卦に限らず、悪い卦が出た時には、早川徳次 小伝を読んで、景気づけをして下さい。