『リボンの騎士』について
シルバーランドのサファイア姫は、「男の子の心」と「女の子の心」の二つを、両方とも持っています。
これは生まれてくる時、天使チンクが誤って、サファイアに二つの心を入れてしまったからです。
これは、女の子に共通の、秘密の悩みではないでしょうか?
子供が少女に成るのは、少年とはまた違った厄介事があるようです。
さて、天使チンクはその過失により下界に落とされ、事態の収拾のため、サファイアを助ける事に成ります。
このチンクも、サファイアの人格の一部として考える事が出来ます。
「人間はかつて天上界に住んでおり、寿命ももっと長く、何らかの過失によって今のように成った。」
と言う考えは、しばしば聞いた事があります。おそらく昔話などを捜せば、世界中にあるのではないでしょうか?
これは現実世界に対する違和感。つまり、子供は生まれて来たばかりで、現実に対する力がない。まだまだ子宮の中、無意識の世界の方が、自分には本来の居場所のように感じる。天使やドラえもん、鬼太郎など、夢想の世界からの助けが必要で、それで一歩々々足場を固めて行かねばなりません。
けれども眠る事が、起きて活動するためであるのと同様に、夢想の世界、無意識と言うものも、現実や意識のための足場としてあるのが、基本です。
チンクは問題が解決すると、本来あるべき場所に収まります。
だからサファイアとチンクの物語は、同時、並行的に進んで行ったと思います。(さすがにもう、忘れてしまいましたが。たぶん、こちらの世界でうまく行きそうに成ったら、天上界で具合が悪く成るなどの事があったのではないでしょうか?)
サファイアは、馬に乗り、剣を振るいます。その姿はどんな男の子よりも立派で凛々しく、爽やかです。これは女性に成るために必要な前段階、アニムス憑依と言うのが判断の定番でしょう。(少年漫画の『学園バイオレンス物』に、必ず一人、美形で知的な女性的キャラクターがいるのと同じだと言う訳です。)
しかし、「それだけだろうか?」とも思います。
つまり、ちょうどアマテラスが岩戸にこもった時、かすかに開いた隙間をタジカラオがこじ開けたように、少女が女としてのペルソナを獲得するには、相当に男性的で意識的な努力が必要なのではないか? いや、そう言う努力をしているのではないか? だから共感を得るのではないか? と言う疑念です。
上は私の妄想かも知れませんが、この反対に、少年が男としてのペルソナを獲得するには、女性原理による努力がかなり必要な事は、ある程度の自信を持って言えます。
そして少女漫画といえば、『恋愛』ですよねー。これは、はずせません。
サファイアは隣国ゴールドランドの、文字通り「白馬に乗った王子さま」に恋をします。
しかし王子様は女性の時のサファイア、『亜麻色の髪の乙女』に恋してしまい、その切ない心をサファイアに打ち明けたりします。
女の子は、好きな男の子が女優や歌手をほめそやすのを聞いて、
「それは私よ!」
と、心の中で叫びはしなかったでしょうか?
『リボンの騎士』は、男の子だった私が読んでも充分におもしろく、すっかりサファイアに同情してしまったものですが、女の子が読んだら一種、「たまらん」ものがあるのかも知れません。
リボンの騎士が与えた影響は、決してアトムに劣らぬ事と思います。
ついでに『鉄腕アトム』も読んでみる。
『エッセイの入り口』 >ショウペンハウエルに似た人1