ユングは?


 ユングはその著作で、しばしばショウペンハウエルに対して否定的な発言をしています。だから私は、てっきりユングはショウペンハウエルを評価していなかったのだろうと、長く残念に思っていました。しかし、彼の最晩年の『自伝』によると、ユングは思春期からカントとショウペンハウエルに深く傾倒し、生涯を通じて親しみ深い態度を示しています。この辺は、面白いところですね。

 ショウペンハウエルの悪い所(面白い所)は、非常な攻撃性、強烈な皮肉、救いがたいほどの辛辣さ ……… などですが、(これこそ彼が、読む人を爆笑させる数少ない哲学者の一人である事のゆえんですが、……… ) これらの特徴は、恐怖や不安、孤独に対する典型的な反応です。この事は、どこの職場にもいる『戦闘用攻撃型OL』が、その通りであると言えば、どなた様も納得して頂けると思います。

 おそらくユングは医師として、こういった患者を見飽きていて、心底うんざりしていたのではないでしょうか? 著作のどこかで、「その文章の心理的背景は、容易に見透かすことが出来る。」と酷評してもいました。それにしては、『自伝』に見られるあの、尊敬と親しみ深い態度は何なのでしょう? この相反した態度の秘密は?

 私は息子が父親に対するような態度を思い起こします。
 「このバカ親父がっ」
 と言う訳で、まったくこの親父は、酔っ払うわ、ご飯を食べながら寝てしまうわ、猫は踏むわ、おならはするわで、どうしようもないっ。
 しかし、小さい頃から色々教えてもらったし、あちこち連れてってくれたし、そのワザは尊敬しているし、愛着を感じてもいる。……… が、悪態はつく。それで、ちょうど良い ………



『エッセイの入り口』に戻る

ふりだしにもどる